第四章

はじめての創作絵本「たんすのひみつ」

それから数年して、私にとって大切な友人との出会いがあった。
安藤明義氏は童話作家、編集者であった。知り合った当時、編集プロダクションを経営していた時代だった。安藤明義氏は絵本や小学生用教科書などにも童話が掲載される力のある童話作家だった。
安藤氏と知り合ったお陰で新しい絵本のあり方を学び、新しい世界へ導いてくれたのが彼であった。彼と一緒に創作絵本を出そうとどちらから云うともなく出版したのが「ふくろうの木」であった。
文を安藤明義氏が書いて出来上がったのは1978年の事だった。
絵の完成後、1979年岩崎書店から出版する事になった。この絵本の絵は老齢の木が主役なので木の表現をカラーインクでペン画として細密に描写した。
その上から彩色を施し他の部分の表現は普通の彩色画とした作品であった。この絵本の出来上がりを見て失望した。それは自分の知識不足からカラーインクを上手に使いこなせていなかったことだった。カラーインクの中にシェラックという物質(甲虫から抽出した物質・発色を良くする)が混入されて、製版時のカメラ撮りで黒っぽくなるのだそうだ。そのために、絵が沈み、あまりいい出来ではなかった。

「ふくろうの木」の制作が終わった後、娘のために絵本を作りたいという願いを持っていた。

試行錯誤を重ねた上、やっと出来上がったのは「たんすのひみつ」だった。最初、タイトルは「おばあさんのたんす」だった。この時生まれて初めて書いた文章と絵本のダミーを偕成社に持ち込み、文章は編集部でリライトする時に文を直してもらえばとの、のんきな考えであった。
このダミーを見た編集長は「これは良い本だよ。文章はこのままやろう」と言った。
私の初めて書いた文章なのに本当にいいのかな?と耳を疑ってしまった。
そんな私の心を無視したように編集長は「しかし、本の題名を変えた方がいいよ」「そうだ!『たんすのひみつ』がいい」そう云った後、自分自身納得したように「子供は秘密が大好きだから、これにしよう」と決めてしまった。

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