第六章・前編

印画紙もキャンバスに ワイプアートの開発 (前編)

義理の妹の結婚で会社を続けられないということで、私も今さら会社を運営する元気を無くしていた。なんてまるっきりの嘘だったが会社は廃業する事にした。
以前から頭のスミに住み着いていた作品制作を簡単に、最初に描いたデッサンの持ち味を崩さず、しかも色彩の変更、カラーリングのしやすさを簡便に出来ないかと考えていた時期なので、チャンス到来とばかりに即ある方法を実行に移していた。

その方法とは製版カメラでデッサンをスクリーンを使用して撮影し印画紙に焼きつけた後、写真の画像を脱色した後、着色し完成する方法であった。
スクリーンを使うのは、原画が白黒2調階の絵ならば問題ないのだがグラデーションのある絵なら調子の表現が無理になるその調子を美しく表現するために原画撮影時にスクリーンを使うのである。スクリーンは原画のグラデーションや階調を点叉は線に置き換えて再生するための物である。上の作品「風の中」の作品で分かってもらえると思う。また、新聞などの写真を良く観察する事で点の集まりだと気づくと思う。
このワイプアートは、着色することで作品制作が可能となるため普通の印画紙(写真)のように何階調にも表現できる印画紙ではスクリーン撮影は不可能になる。あくまでも、白黒2階調、の印画紙を主体に考えていたのでその用途にあう印画紙として三菱製紙から出ている「ワンステップ」(製品名)を使う事にしていた。
印画紙は基底材の上にゼラチン質の層がある。画像を感光するのはゼラチン質であり、色が付くのもまたゼラチン質である。基底材には色が付かないため、反転したイラストレーションの複写写真を使う事で、画像を脱色する事から基底材の部分が表れ色が付かないが、光の当たらない白い部分すなわち、反転し
た画像であるから原画の正画像が光が当たらないため白く残り、ゼラチン質が基底材に残る訳だからそれに着色する事で正像となる。この考え方で研究を進める事になった。

研究もある程度進み、染料にもある程度メドの付いた頃、ゼラチン質に染色された色の脱色に取り組んでいた。
いろいろと脱色の試行錯誤が続いていた頃、突然閃いた。それはだ液である。永年の経験からだ液は汚れや色を弱める効果がある事を知っていたし、実際に印画紙などの汚れや脱色にある程度の効果がある事からとにかく実験する事にした。素人的発想からその成分や効果など知りたくて図書館通いが始まり、そこから得たヒントをもとにとにかくひとつひとつ実験してみようと各製薬会社に問い合わせてみた。
しかし、現時点ではアミラーゼなど製品化はされていないとの返事にがっかりしていた。(現在ではアミラーゼなどは化粧品等にも使われ当たり前のようになっている。その当時、開発中あるいは外部に出せなかった何かの事情があったのかも知れない。もし、手に入れる事が出来たなら別な方向へ研究が進んでいたに違いない)
そんなある日のこと、ふらりと寄った画材店でドクターマーチン社のカラーアウトを見つけ試してみた。ある程度の効果があるもののゼラチン質に入り込んだ染料を脱色させる効果は薄かった。企業の研究陣でこの程度なら素人の私には到底無理のような気がしてきた。それだったら利用の仕方を工夫する事で何とかなるだろうと考えたら気が楽になってカラーアウトを使う事にした。

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